【少年野球2.0】「野球肘」を通して浮かび上がる、日本の少年野球の問題点

本年5月、医学、看護学書出版の文光堂から「野球肘検診ガイドブック」が発刊された。
野球関係者と医療関係者が総力を挙げて編集!野球肘の早期発見と予防のためのガイドブック!と銘打たれた本書は、スポーツ医療の従事者だけでなく、少年野球の指導者や、子どもに野球をやらせたい親にとっても、必読の一冊だ。

2018.06.28
本書は「野球肘」の専門書ではあるが、同時に日本の少年野球の課題、問題点を鋭く指摘している。
 
「10 学童期の野球少年の育成と身体機能」では、成長期の(子供の)指導者の評価は「勝利数」ではなく、「高校以降で活躍できる選手を育てているかどうか」が尺度になるべきである。
と明確に指摘、競技スポーツのゴールは「人づくりと勝利の両立」だとしている。
 
さらに5、6歳ころから中学生期以降の発達段階を分かりやすく説明している。
日本の少年野球は「目先の結果」を追求しがちだ。このために発達段階を無視して、大人と同じような指導、トレーニングを子どもに科してしまうことが多い。しかしスポーツ、教育の一環として考えれば、本来どうあるべきなのかを、「野球肘」の問題を通して明確に指摘している。
そういう意味では本書は、日本の少年野球の未来を示唆した書ともいえよう。
 
本書は22人の医師、専門家が執筆しているが、編集代表である国立病院機構徳島大学/東京明日佳病院の柏口新二医師は、本書の意義について以下のように述べた。
 
野球肘は高度成長期の1970年代から急激に増え、80年代には整形外科学会で大きくとりあげられ、社会問題となりました。
徳島県も野球の盛んな地域で多くの子ども達が“手が顔に届かない状態”で病院に来るようになりました。本文中に詳しく記載していますが、1981年より徳島大学整形外科の岩瀨毅信先生が実態調査を始めました。県下の全ての野球チームが集まる大会の現場で全ての子どもを対象に行いました。それにより、「野球肘にも症状がすぐに出る内側上顆障害と症状が出にくい上腕骨小頭の離断性骨軟骨炎(以下OCD)がある」、「OCDは投球数や投げ方とは関係なく発生し、発生は11歳前後で発生率は2%前後である」、「OCDは病院で待っていては手遅れになること」、「OCDは症状の無い時期に見つけると保存的に治る」などという事実が次々に分かりました。毎年1500人から1800人の検診をすることで、教科書や論文には記載されていない知見が得られました。

その後超音波検査(以下エコ−)を導入することによって、「野球少年だけでなく同世代の子どもに無症候性のOCDがかなりの数いる」、「早期発見にはレントゲン検査よりエコーが鋭敏である」なども分かり、エコーが検診の中心になりました。野球肘検診に興味を持つ人々が全国から徳島に集まって研修し、理念を理解して各地で検診が開催されるようになりました。しかしここ5年前あたりから私達と直接に関わって無い人々も検診を開催するようになりました。検診を受けたにもかかわらず、半年後に肘が腫れて動かせなくなったという事例が出るようになりました。また検診で早期発見したにも関わらず二次検診病院で異常無しといわれて放置され、1年後に重症化して手術になった事例などもでました。野球少年に関わる全ての医療関係者に最低限の正確な知識を持っていただきたいと願い、ガイドブックにまとめました。

指導者も、親も必携「野球肘検診ガイドブック」発刊

目次は以下の通り。
 
1 学童期野球肘検診の意義と普及
 1 学童期野球肘検診の意義
 2 アンケート調査による野球肘検診の現状
 3 「運動器の10年・日本協会」成長期スポーツ障害予防委員会の取り組み
2 子どもの育成と野球肘検診
 1 子どもの育成における野球肘検診の位置づけ
 2 野球肘検診の広がりと課題
 3 野球肘検診マップの必要性
3 成長と野球肘
 1 子どもの野球肘と成人の野球肘
 2 上腕骨小頭の骨化進行過程と離断性骨軟骨炎(OCD)
 3 OCDと骨軟骨骨折の区別
 4 検診対象となる障害
4 学童期野球選手の検診
 1 検診とは?—検診,健診とメディカルチェック
 2 検診でターゲットとすべき疾患は?
 3 検診のながれ
 4 事前準備
 5 アンケート調査
 6 一次検診
 7 一次検診後の対応
 8 二次検診受診時の対応
 9 二次検診結果の報告
5 超音波検査(エコー検査)の実際
 1 原理と手技
 2 エコー所見の読影—観察のポイントと評価方法
 3 症例提示
6 野球肘検診における画像検査選択の指針
 1 離断性骨軟骨炎の診断
 2 内側上顆障害の診断
7 中学生野球選手の検診
 1 検診の目標とする障害
 2 いつ,どこで,どのように行うか
 3 指導者・保護者の見守り
8 高校生野球選手の検診
 1 検診の目標とする障害
 2 いつ,どこで,どのように行うか
 3 指導者・保護者の見守り
9 トップレベル選手の身体チェック
 1 トップレベル選手に必要な身体チェックの全体像
 2 医学的検査の意義と内容
 3 医学的検査の留意点
10 学童期の野球少年の育成と身体機能
 1 少年野球選手の育成と野球指導—学童期に身につけてほしいこと
 2 体力チェックの項目
 3 ストレッチの実際
11 グラウンドや家庭でできるセルフチェック
 1 子どもの身体の変化を見逃さない
 2 誰に相談するか
12 各地の検診活動
13 野球肘検診の過去,現在そして未来へ
 1 野球肘検診の始まり
 2 現行の野球肘検診
 3 将来の野球肘検診のあり方
コラム
 検診と健診,メディカルチェックの違い
 「滑り台のトップ」は危険がいっぱい
 X線検査と超音波検査 どちらが敏感か
 野球肘検診と野球検診
 

そもそも「野球肘」とは何か、子供と大人の野球肘はどう違うのか。何が問題なのか、という基本的な問いかけに、専門家が丁寧に説明をしている。
検診を受けるときの服装、選手と親への説明の仕方、二次検診、その後の療法などもステップを追ってきめ細かく説明されているので、指導者にとっても格好のマニュアルになるだろう。
少年野球の指導者、親、問題意識のある人はぜひ、手に取っていただきたい。(広尾晃)

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