今の高校野球、少年野球の在り方に一石を投じた「甲子園という病」

「甲子園という病」というセンセーショナルなタイトルの新書が大きな反響を呼んでいる。アマゾンでは新書部門の1位になっている。
スポーツライターの氏原英明さんが、15年にわたる高校野球の現場での綿密な取材をもとに、今、甲子園、高校野球に何が起こっているのかをレポートしたものだ。

2018.08.22

高校野球の現場に密着して

章立ては以下のようになっている。
 
第一章 玉砕球児が消えない理由
第二章“大谷二世"を故障させた指揮官の反省
第三章 松坂大輔と黒田博樹から考える“早熟化"
第四章 メディアが潰した「スーパー一年生」
第五章 プロ・アマ規定で置き去りにされた指導の在り方
第六章 日本高野連にプレーヤーズ・ファーストの理念はあるのか
第七章 「楽しさ」を取り戻せ
第八章 甲子園出場を果たした「日本一の工業高校」
第九章 偏差値70超えのスーパースターが誕生する日
第十章 高校球児の「模範的態度」と「個性」

一章、二章では将来有望な投手を登板過多、酷使でつぶしてしまった経緯を、選手本人や指揮官への取材をもとにレポートしている。
 
三章は、甲子園で輝いた松坂大輔と、高校時代は無名で、プロ、MLBで大成した黒田博樹と言う二人の投手の野球人生を追い、野球選手、とりわけ投手にとって「成功」とは何なのかを考察している。

四章は、「熱闘甲子園」など、最近の過熱するメディアが、高校生を一躍スターに祭り上げることが、本人のその後の人生にどのような影響を与えたかをレポートしている。
 
五章、六章は、問題があっても迅速に動けない、自己改革できない高校野球の硬直化した現状を歴史的な経緯をまじえ紹介している。
 
こうした現実を突きつけられると、率直に言ってやりきれない思いにとらわれるが、この本の後半では、そうした矛盾に満ちた状況でも、何とか現状を打開し、高校球児にとって望ましい環境を作るべく努力している現場を紹介している。

七章、著者は東海大相模のエース小笠原慎之助(現中日)が、2015年「今まで野球をやってきて楽しいと思ったことはないです」と語ったことにショックを受けた。しかしそんな中で、「野球の楽しさ」を取り戻そうとする指導者を描いた。

八章では野球とともに将来に役立つ資格取得にも励む工業高校の姿を紹介し、九章では今や「史上最強の高校」になりつつある大阪桐蔭と、そのライバル履正社の「文武両道」の取り組みを紹介している。
 
そして十章では「高校球児らしさ」について、現代の視点から問いかけをしている。

現場からの「不都合な真実」の告発 

この夏は、酷暑と言うこともあって、高校野球に対する批判の声が例年になく高まった。
橋下徹氏などの著名人も、投手の酷使などに疑問を投げかけた。

この本は、そうした批判とも一線を画している。
著者の氏原英明さんは、十数年にわたって高校野球の現場を取材し、指導者、選手と言葉を交わしてきた。ある意味で「身内意識」が芽生えてもおかしくない信頼関係を築いてきた。その立場でありながら「不都合な真実」をストレートに世に問うたのだ。
これによって、今後、取材に不都合が生じたり、何らかの圧力を受けたりする可能性もある。しかし、それでも書かずにはおれなかった。

メディアはなぜ、声をあげないのか

出版後、氏原さんに話を聞いた。

「こうした問題意識をはっきり抱いたのは、2013年春、済美高校の安樂智大投手(現楽天)が、2回戦から決勝まで5試合を一人で投げぬき、772球を投げたことがきっかけです。このときは、Yahoo!スポーツのジェフ・パッサン記者など、海外のメディアが投手の酷使について盛んに報道しました。さすがに日本のメディアも伝えましたが、この年の夏に再び安樂投手が甲子園に出場した時には、その話題は殆ど取り上げられませんでした。私自身、それまでも問題意識は持っていましたが、今の高校野球はおかしいのではないか。子どもたちの役に立っていないのではないか、とはっきり思い出したのはこのときからです」

氏原さんは高校野球の開催期間中、甲子園の記者席に座り、全試合を観戦し、記事を書いている。その中で、投手の酷使など問題が生じれば、それも記事にしている。

「試合後のインタビューで、主要メディアの記者は球数の問題など、選手の健康面についての質問はほとんどしません。私や2~3人のフリーランスの記者が質問するだけです。その答えを主要メディアの記者はメモして、当り障りのないような形に加工し、記事にしています。メディアが高野連や主催者に忖度する状況にも問題があると思います」
 
そうした問題意識が具体的な形を取ったのが、今回の出版になった。
 
「高校野球の現場にさまざまな問題が存在するのは、突き詰めれば『甲子園』があるからです。甲子園が変わらないから、高校野球、そしてそれ以下の少年野球の現状も、問題が噴出しているのに変化できない。『甲子園という病』というタイトルはそういう意味です。
この本を貫いているのは『それは本当に高校球児のためになっているか?』ということです。今はやりのことばでいえば『プレーヤーズ・ファースト』です。その視点から考えていけば、答えはおのずと見えてくると思います」

この新書は、今後の高校野球、少年野球の在り方に大きな一石を投じることになるだろう。
(取材・写真:広尾晃)

(取材・写真:広尾晃)

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