筒香嘉智著「空に向かってかっ飛ばせ」11月30日発刊

2018.11.29
この本には、一般的なプロ野球選手本のような「手に汗握るライバルとの対決」や「根性で猛練習を耐えた」のような話は出てこない。筒香嘉智は、甲子園でも大活躍したが、それを誇らしげに紹介することもしていない。

少しぽっちゃりした目立たない和歌山の野球少年が、プロ野球のトップ選手になるまでが、素直でわかりやすい筆致で、丹念に描かれている。

はっきりわかるのは、筒香少年が「なんでも自分で考え、決断し、実行する」子供だったことだ。
また、周囲には筒香少年を教え導く「よい大人」がそろっていた。最初に熱心に野球を教えた父がいた。そして自らの野球選手の夢を断念し、筒香に夢を託した10歳上の兄がいた。

その兄の導きで、堺ビッグボーイズの瀬野竜之介監督(当時)に出会うのだ。

筒香は、甲子園で見た松坂大輔へのあこがれから、関西地区出身ながら横浜高校に進み、甲子園で大活躍する。しかし筒香の眼差しはプロ野球へとむけられていた。

 
プロでも名コーチとの出会いがあり、筒香は強打者へと成長する。

大きかったのは、ドミニカ共和国での体験だ。プロのレベルの高さもさることながら、プロを目指して失敗を恐れずにプレーする子供たち、そしてそれを見守る大人たちに、日本の少年野球とは全く違う情景を見て、衝撃を受けるのだ。

筒香は侍ジャパンの4番を打つまでに成長するとともに、今の日本野球について大きな問題意識を持つようにもなった。
そして、堺ビッグボーイズが取り組み始めた改革に共鳴し、オフにはスーパーアドバイザーとして活動するようになる。

この本では、最後の1章を割いて、堺ビッグボーイズの少年野球改革の取り組みについて取り上げている。
筒香が在籍したころの堺ビッグボーイズは、勝利至上主義に走るふつうのボーイズリーグのチームだったが、そこから大きく方針転換をし、勝利至上主義を排し、子供の将来を考えた指導へと変革した。

瀬野竜之介代表、そして筒香をドミニカ共和国へと案内した阪長友仁コーチをはじめとする指導者が、新しい少年野球の考え方を強力に推進している。

その方向性と、筒香嘉智の問題意識がぴったりと一致したのだ。

2018年1月15日、堺ビッグボーイズでメッセージを述べる筒香嘉智

筒香嘉智は、今年1月15日、堺ビッグボーイズで現役のプロ野球選手としては異例のメッセージを報道陣の前で発表した。「勝利至上主義」を排除し、本当に子供のことを思って指導をしなければ「野球離れ」を食い止めることはできない、と力説した。

筒香の発言は、各メディアで取り上げられ、大きな反響を呼んだが、この本には、筒香がこうしたメッセージを発信するに至る経緯が詳細に書かれている。

筒香のメッセージ以降、堺ビッグボーイズの選手数は急増し、今では140人を超えている。

しかし、「勝利至上主義」は、いまだに少年野球の主流になっている。今年の夏の甲子園のように、健康被害の恐れがありながら選手を酷使する風潮は、まだ根強く残っている。

堺ビッグボーイズをはじめ、これを改革しようという機運は高まっている。筒香嘉智のようなスター選手が、これに賛同し、声を上げ始めたことは誠に心強い。

良い野球選手になるために必要なのは単なる「ど根性」や目上の言うことにただ従う「従順さ」ではなく、自分でとことん考え、決めて、それをやりぬくひたむきさなのだ。

この本は、野球指導者、これから我が子に野球をやらせようとする父母には必読だ。そしてプロ野球を夢見る野球少年にもぜひ読んでほしい。(文・写真:広尾晃)

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