【少年野球質問箱】球速、球威がアップする練習、トレーニングを教えてください(中編)

全国約7,000人の野球指導者及び保護者から絶大な支持を得ているFacebookページ「少年野球指導者のひとり言」の管理人廣川さんが、お父さんお母さん、指導者の皆さんの少年野球に対する悩みや疑問にお答えします。

2018.12.06

今回の質問・お悩み



「球速、球威がアップする練習、トレーニングを教えてください」

中学1年の息子が硬式野球をやっています。ピッチャーです。
あまり強くないチームですが現在3番手か4番手くらいです。

息子はコントロールはまずまず、スピードはそんなになく、変化球はあまり曲がってるとは思えないカーブを投げます。たまに登板する試合では結構打たれます。紅白戦でも結構打たれます。
監督やコーチからは「もう少し球速がないと」「もう少し球威が欲しい」などと言われています。

息子もそれらの課題を克服するために、平日はチームから課されている体幹トレとランニング以外にもシャドーを行なったり、たまに近所のチームメイトを相手に投球練習もしています(筋トレはチームで禁止されているのでやっていません)。

しかし、チームからは「監督、コーチが見ていないところでの一切の投球練習は禁止。シャドーも禁止」と言われてしまいました。理由は見てないところでピッチング練習をするとフォームを崩す恐れがあるからとのことです。それ自体には納得はできるのですが、土日しか行われない練習では1日50球という球数制限があり、満足に投げ込みを行うことができません。

体が未発達であったり、ピッチングフォームの崩れからくる故障など、息子の体と将来を危惧していただいているのはわかるのですが、同時に「エースになりたい!そのためにはもっと練習したい!もっと投げたい!」という息子の気持ちもわかります。

そもそもですが「球速アップ、球威アップ」のためには投げ込みは必要ないのでしょうか?
また、平日に行なえる練習で「球速アップ、球威アップ」につながる練習、トレーニングメニューにはどんなものがあるのでしょうか?


廣川さんの答え

【まずはちょっとした物理の問題】
下の図1のように車の上に棒を立てて、車が走行させました。棒は根元を接着剤などで固定し、後ろ方向には倒れないような細工がしてあると思ってください。走行中の車が停車した場合、図のように棒は倒れると思います。
さて、この棒の先端が前に倒れる速度を最大化させるために必要な要素は2つあります。
その2つの要素は何だと思いますか?

(図1)

答えは「(1)車の速度、(2)急停車」です。

車の速度が上がるほど、車の上に立っている棒の運動エネルギーが増加します。そして急停車することで、棒の先端に慣性が働き棒の先端から前に倒れます。ゆっくり停車すると運動エネルギーも低下するのでゆっくり倒れますが、急停車すると棒の先端の運動エネルギーが保持されたままになるので勢いよく倒れます。

さて、これが球速と何の関係があるのか?
車を「下半身」、そして棒を「腕」だと思ってください。ここに球速アップの原則が隠れています。

球速の「原点」は下半身にある
上記の車に例えると、投球の際に捕手方向に足を踏み出しながらの「加速」と踏み込んだ足による「急停車」、どちらも下半身の作業です。実際の投球の場合にはこれ以外の運動が加わりますが、下半身の動きは上半身の動きに運動エネルギーを与え、強い踏み込みはその運動エネルギーのロスを少なくボールに伝える「慣性」を与えます。そのためにも下半身の動きのスピードと動きを止める強靭さは重要だと考えます。
もう少し右投げの投手を例にして、部分的に解説したいと思います。

【1】つま先の角度は90°

別のコラムでも書いたことがありますが、踏み出した左足のつま先と軸足になる右足のつま先角度を90°になるように左足を踏み出すことが重要です。最近の子どもは股関節が固いために、左足のつま先が内側を向いてしまう選手を多く見かけます。つま先が内側を向いてしまうと体重移動の阻害要因になるために下半身の力を十分に使うことができず、上半身に頼った投げ方になってしまいます。
そして左足の踏み込みは強ければ強いほど、前述の「急停車」になるので、上半身に慣性が伝わりやすいです。
※この企画の13回目で詳しく説明しているので、そちらもご覧ください。

【2】右足内転筋の動きは「素早く小さく」

左足を踏み出した後は腰をホームベースに向かって正対させていきますが、その時に重要なのは「右膝の使い方」です。右膝を内転させることで腰が正対に向かうわけですが、「腰を回して」という教え方をすると、回転速度が落ちるので「膝を素早く、小さく入れる(=内転させる)」と指導した方が効果的です。大きな動きよりも小さな動きの方が速度が上がるためです。

【3】右の腰で右肩を引っ張るイメージで

右膝を素早く内転させると、上半身に慣性が働いて肩も正対に向かいます。この時に最も適切でない指導法は「腕を振れ」だと私は思います。「腕を振れ!」と指導すると、腰の正対よりも腕を先に振ろうとしてしまうので、結果的に手投げになってしまいますし、腕を先に振るといわゆる「(肩が)開く」になってしまいがちです。「右腰で右肩を引っ張る」くらいの方が下半身の力を上半身に伝えやすいです。

【4】右腕は「回内 → 回外 → 回内」

投球でボールが頭の後ろ側に来る地点を「トップ位置」と言いますが、トップにボールを引き上げる時には腕を回内させながら持ってくるとトップ後のアクセラレーション期における回外動作の反動を作りやすいです。この回内が不十分なままで肘をしならせようとすると内側側副靭帯に負荷がかかり、肘の故障の原因となります。そしてこの「回内→回外」の切り返しは【2】の膝の動きとシンクロさせるとタイミングが取りやすいです。その後はボールのリリースに合わせて腕を回内させます。

非常に説明が長くなってしまいましたが【1】〜【4】を順番に、そして前の動作の慣性を感じながら次の動作に移行していくことが最も効率よく力のあるボールを投げるコツだと思います。そして中学生は特に【1】〜【2】のスキルを優先的に身につけて欲しいと思います。

次回はいよいよトレーニング方法について説明したいと思います。




*「ご用件」に「少年野球質問箱」と書いて、廣川さんに教えて欲しい悩みや疑問をお送りください。

「廣川さん」プロフィール

廣川寿(ひろかわ ひさし)1969年生まれ。愛媛県出身。全国約7,000人の野球指導者及び保護者から絶大な支持を得ているFacebookページ「少年野球指導者のひとり言」管理人。

【球歴】
えひめ西(現松山)、リトルリーグ、愛媛県立松山北高等学校、甲南大学(阪神大学野球連盟)、リクルート(社会人野球東京支部)

【受賞歴】
■リトルリーグ
-四国大会優勝

■高校野球
-愛媛県中予地区新人戦優勝
-秋季愛媛県大会準優勝(四国大会出場)
-第59回選抜高等学校野球大会出場

■大学野球
-阪神大学野球連盟2部リーグ最優秀投手賞
(→1部昇格)
-阪神大学野球連盟特別賞(3度)
 ・1試合最多奪三振記録樹立(18個/当時)
 ・通算最多奪三振記録樹立(351個/当時)
 ・通算最多登板記録樹立(57試合/当時)
-学生日本代表候補選手選出 など

【野球指導歴】
-学童野球コーチ
-中学硬式野球チームコーチ・監督
-その他高校・社会人野球臨時コーチなど多数。


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